ここでAさんとBさんにご登場願いましょう。
Aさんは今まで湿疹等はできたことがなく今回たまたま山から帰ったら左下肢に直径2cm程の湿疹ができました。一方Bさんはこの10年ほどしつこい湿疹に悩まされています。体中あちこちに湿疹ができ続けていつも痒みがあります。左下肢の湿疹が外用薬で漸く治った頃には右上肢に湿疹ができているというぐあいです。
ではAさんの湿疹とBさんの湿疹とどう違うのでしょうか。これは湿疹としては同じなのですがその背景にあるアレルギーの体質が違います。
Aさんはアレルギーの体質はなく今回たまたま山で何かにかぶれたかして偶然湿疹ができたものと思われます。従ってAさんの治療は痒みがなければ外用薬だけでよいと思います。抗アレルギー剤の内服は必要ないでしょう。
問題はBさんの場合です。Bさんは慢性アレルギー性皮膚炎で、アレルギーの体質があっていつも湿疹ができやすい状態になっていると考えられます。ところがBさんはこれまで抗アレルギー剤の内服はせずに外用薬だけで治療していました。その結果湿疹ができては外用薬で治し、治った頃には別の場所にまた湿疹ができているということを繰り返していました。
Bさんの治療法には大きな間違いがあります。外用薬はステロイド剤にしろ非ステロイド剤にしろできてしまった炎症(=湿疹)を治すだけで、体内のアレルギーを鎮めて湿疹をできなくする効果はありません。いいかえれば外用薬は一時抑えの薬でしかないのです。Bさんの場合本当に必要なのは抗アレルギー剤を内服して体内のアレルギーを鎮めてやることです。
抗アレルギー剤を内服していると次第に体内のアレルギーが鎮まり湿疹ができにくくなります。もちろんできてしまった湿疹に対しては外用薬も用いるのですが、本格的にアレルギーが鎮まっていくに従って湿疹もできなくなり、痒みもなくなってきます。
ここまでは比較的簡単にもっていけるのですが、ここからの抗アレルギー剤の減量が実は一番難しいところなのです。今までの経験からここで一度に抗アレルギー剤を中止してしまうと殆どの場合再発します。ここからが皮膚科専門医の腕のみせどころです。例えば1日2回の内服をしていたならば1日1回を2~3週間続ける、さらに良ければ2日に1回にする、次は3~4日に1回という具合です。もちろんこの間に痒みが強くなれば少し元にもどす、ということも必要です。長期間に渉って症状に合わせて少しづつ減量・増量を繰り返しながら結果的には減量の方向へもっていく。これが匙かげんというものです。
実際私はこの治療法を行ってたくさんの患者さんをコントロールしてきて、1週間に1~2回内服すれば全然湿疹もでないし痒みもないという方がたくさんいらっしゃいます。もちろん湿疹自体が殆どできませんから外用薬も要りません。
ではいっそ「抗アレルギー剤内服をやめてしまったらどうか」と言いますとやはりそうはいかないようです。1週間に1回内服しているだけの患者さんでも一回内服を抜くとその数日後には必ず痒くなってくるそうです。結局アレルギーの体質は持って生まれた体質で完全に無くなることはないのでしょう。ですからアレルギーの体質を無くそうとするのではなく「いかに必要最低限の内服薬で上手にコントロールするか」を考えましょう。今の抗アレルギー剤は殆ど副作用もなく安全な薬がたくさんでています。たまに「内服すると眠くなる」位が殆ど唯一の副作用ですから安心して治療を受けてください。