爪白癬の爪削り療法

要約

1 )白癬菌で白濁肥厚した部分をやすりでできるだけ削り取る。特に爪の奥の正常部との境界はできるだけ近くまで削る。

2 )削った表面から液体状の抗真菌外用薬をたっぷり染み込ませる。

3 )根気よく毎日続ける。

はじめに

近年爪白癬に対する抗真菌剤の内服療法がメディアで広告され、多数の患者様が皮膚科で内服薬を処方されています。私の診療所でも沢山の患者様が見えましたが、「10人に1人ぐらい肝障害などの副作用が出る」「そのために治療前と治療後も定期的に血液検査が必要」「内服しても1~2週間で治るわけではなく半年~1年はかかる」という説明をすると大半の患者様が内服治療を辞退されます。

また最近では一度内服治療を始められた患者様も「1年近く内服しても効果がない」「パルス療法(短期間に大量に内服する治療法)をやったがその後半年たっても効果がでない。」と中止される方も見えます。 一方従来の外用療法では爪白癬に対しては爪の先の白濁し脆くなった部分から液体状の抗真菌薬を染み込ませるだけでしたので、患部の奥深く(爪の根元の部分)までは薬が染み込まずなかなか効果も得られませんでした。

そこで私どもは1年前から試験的に「爪白癬の爪削り療法」を開始したところ、かなり良い結果が出るようになりましたので、爪白癬の患者様全員に施行しご家庭でも行うように説明しております。

爪削り療法

この治療法は元々は皮膚科雑誌に紹介された治療法で、真菌に侵された分厚い白濁した爪の表面の硬い爪甲部の中心に錐で穴を開け、そこから液体状の抗真菌外用薬を注入するという治療法でした。最初は私どももこの方法で始めましたが、小さい穴ではなかなか液体状の外用薬が注入できず段々大きな穴を幾つも開けるようになり、結局は金属製の大きなヤスリで白濁した爪の硬い爪甲部を削り取り、その下のガサガサした白い部分(白癬菌で白く脆くなった爪)もできるだけ削り取り、そこに液体状の抗真菌外用薬をたっぷり染み込ませるという治療法です。次に具体的な方法を示します。

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方法・手順

やすりは木工用の20cmぐらいの金属製のやすりを使用します。目はある程度細かいものがよさそうです。

下図は爪白癬の罹患部位の模式図です。グレーの部分が白濁肥厚した罹患部分で点線は削取る範囲を示します。一度に罹患部位をできるだけ除去するのが理想的ですが正常部位との境界は出血しやすく無理に削ると痛みもありますので、最初は患部の1/2~2/3ぐらいを削り取り、あとは毎日少しづつ追加していくのがよさそうです。ただポイントは爪の奥の正常部との境界はできる限り近くまで削り取り、薬が正常部に達しやすいようにしてやることです。

 

抗真菌薬の外用と経過

上記の方法でできるだけ白濁部分を削取り、そこへ1日2回液体状の抗真菌薬をたっぷり染み込ませます。場合によっては抗真菌薬を外用してその上からサランラップなどを被せて密封するのもよいかと思います。サランラップを被せるのは皮膚科では昔から行われている治療法で密封療法と呼ばれ、外用薬を深くまで浸透させる時に使います。

削取りと外用を毎日根気よく続けていると1~2カ月で「白濁部分が前に押し出されてきた。」「白濁部分の底部が少しきれいになった。」という患者様のお話を聞きます。治りだすと爪の根元から正常な爪が爪の先に向かって伸び始めます。全治するには半年~1年かかりますが、削取りと外用だけですので副作用の心配もなく安心して行えます。今まで単純な外用だけで治療効果が上がらなかったのは薬が効かないのではなく、薬が罹患部全体、特に正常部との境の部分にまで到達しにくいからではなかったかと考えています。

 

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