要約
1 )イオントフォレージス療法は医薬品の分子を電流でイオン化し、皮膚の深い所へ高濃度で浸透させる治療法である。
2 )外用薬や内服療法に比べ患部に高濃度に薬剤が浸透するので、従来の治療法では不十分な難治性の疾患に効果を発揮する。
3 )現在では美容部門の分野での「美白を目的とする高濃度ビタミンCイオントフォレージス療法」と、帯状疱疹及び帯状疱疹後神経痛・その他の原因の神経痛・関節痛・腰痛に対するキシロカイン・イオントフォレージス療法があり、良い成果を上げている。
はじめに
イオントフォレージス(イオン導入)療法は、現在美容部門の分野で「美白のための高濃度ビタミンCイオントフォレージス療法」として脚光を浴びていますが、このイオントフォレージスという治療法自体は40~50年ぐらい前から行われており、水虫・タムシ・ニキビ・慢性湿疹・多汗症などの疾患に対して盛んに行われていたようです。
この治療法はまた今から10年ぐらい前に別の疾患に対して行われ優れた効果があることから当時一躍脚光を浴び、新聞やテレビでも度々取り上げられましたのでまだ覚えておられる方も多いと思います。それが帯状疱疹の神経痛に対するキシロカイン・イオントフォレージス療法です。
イオントフォレージスとは
水に溶けやすい医薬品の分子を電流でイオン化し、皮膚の深い所へ高濃度で浸透させる方法です。このため外用薬の塗布に比べて大きな効果があり従来の治療法で難治性だった疾患に対しても高い有効性があります。原理としては40~50年前のものも現在の美容部門でのものも同じなのですが、当然昔のものと比べて現在は機械も高性能になり、イオン化する医薬品も研究が進み変わって来ております。
帯状疱疹に対するキシロカイン・イオントフォレージス療法
「帯状疱疹」のページでもお話したことですが、帯状疱疹の治療で一番困る事は、多くの患者様が「神経痛が治らない」と言われる事です。長年皮膚科医はこの「神経痛の治療」に苦慮してきました。帯状疱疹の原因である水痘ウィルスに対する抗ウィルス剤が出来てからは神経痛が残る人は減りましたが、それでもまだかなりの人が残存する神経痛に苦しんでおられます。
ただ私共はこのキシロカイン・イオントフォレージス療法と抗ウィルス剤療法の併用で、この16年の間何百例もの帯状疱疹を治療してきましたが、殆ど神経痛が残った患者様はおられません。 最初は私がT市民病院の皮膚科部長をしている時に東京のN大I病院皮膚科から依頼があり、T地区の帯状疱疹の患者様たちをT市民病院でN大I病院皮膚科方式によるイオントフォレージス療法で治療し始めたのがきっかけです。10年ぐらい前に新聞やTVでこの治療法が紹介され、私の診療所にも随分遠くから大勢の患者様が治療に見えていました。今でも大勢の患者様がこの治療を受けに見えております。
帯状疱疹のイオントフォレージス療法の特徴
帯状疱疹に対する治療法は、抗ウィルス剤も他の治療法も活動期ーそれも罹患して直ぐでないと効果がありません。それに比べてイオントフォレージスは残存した神経痛ー即ち「帯状疱疹後神経痛」にも効果があります。もちろん罹患して直ぐに始める方が治癒は早いのですが、今までに治療した帯状疱疹後神経痛の患者様で治癒(痛みが殆どなくなる)までに一番時間がかかった例でも約半年です。普通は罹患直後で約1ヶ月、帯状疱疹後神経痛で約2~3ヶ月で治癒します。
この帯状疱疹後神経痛にも有効性がある事から、今までに十数例ではありますが帯状疱疹とは関係の無い神経痛・関節痛・腰痛などにもイオントフォレージスを試みましたが、これも殆ど全例治癒しております。ということは原因に関わらずイオントフォレージスは神経・関節の痛みに対する治療法としては優れた治療法であると思います。外用薬や内服療法に比べて患部の深い所に高濃度に薬を浸透させる非常に良い方法だと思います。それ故現在でも最先端の治療である美容部門の分野にも応用されるのだと思います。
終わりに
イオントフォレージス療法についてお話してきましたが、50年前の難治性の水虫・タムシ・ニキビに対してこの療法が行われて以来、最近では帯状疱疹と美容部門の分野で新しい方法でのイオントフォレージス療法が行われていますので、これからも種々の皮膚疾患に対して新しい方法でイオントフォレージス療法が試みられてくると思います。皮膚疾患の中にはまだまだ難治性の、従来の外用療法では不十分な例がたくさんありますので、これからも新しい治療法としてこの療法を応用してみたいと考えております。